watanomamaというユニークな生地はなぜ生まれたのでしょう?そこには紡績所として100年以上の歴史を持つ近藤紡績所らしいエピソードがあります。watanomamaの誕生に関わった、素材開発部の担当者に開発秘話を聞きました。
「入社以来ずっと大町工場勤務でしたが、2017年に現在の素材開発部に異動となりました。配属の理由は、導入する新しい機械の備え付け作業と新素材開発のため。その新しい機械というのが、当時世界に4台しかなかった、糸を作らずわたをそのまま生地にできるというもの。他に類を見ない画期的な機械でした」
担当者は、信州大学先進繊維・感性工学科で先進機能繊維材料の開発を学び、近藤紡績所に入社した、いわば繊維のエキスパート。その知識と経験を買われて、最新鋭の機械に向き合う日々が始まります。ちなみに、他の3台は大学などの研究機関が購入したほど、高度な知識と技術を要する機械でした。最初に出来上がった生地を見たときの感想は、「意外と普通」でした。レーヨンやポリエステルとの混紡を考えて作られた、量産目的の機械だったため、想定より硬い生地となってしまったのです。
CRAFTMANSHIP
壁にぶつかり、試行錯誤を繰り返します。「わたらしい感じが一切出なかったんです。メーカーもコットンの綿だけでつくることが想定外だったらしく、化学繊維を入れないと強度的に無理だと言われました」
開発開始から1年後の2018年、遂にプロトタイプが完成。生地のムラを消すなど改善に2年ほど要し、2019年夏にwatanomamaが完成します。
「2年間に試したことを挙げればキリがありません。空気の圧力を変えたり、機械の設定を練り直しました。また、太い細いといったムラを極力なくすよう、工場に特別ラインも作りました。操業マニュアルまで見直して。そして当初は、機械がよく止まっていたんです。1メートルの生地を編むのに機械が5回も6回も止まってしまい、通常1分で出来上がるところ、数十分もかかっていました。トライ&エラーを繰り返すうち、40メートルで1〜2回止まる程度に改善されていきました」
パラメータの設定を変えたら、今度は穴が開いてしまった。「でもある時、今度は違うパラメータを設定してみたら、ちょうどよくなって」。そんな偶然も手伝って、現在のwatanomamaが完成したのです。
一般に生地ができるまでは、「前紡」と呼ばれる収穫したわたからゴミを取り除く作業を経て、綺麗になったわたに撚りをかけて糸にする「後紡」、撚りをかけた糸を使って生地を編む「編立」という工程をたどります。ですが、watanomamaは、「後紡」をスキップ。「前紡」から直接「編立」へ、そして生地にしています。前者のやり方だと、硬く絞ったタオルのようにぎゅっとしてしまいますが、繊維の束にわたの毛羽を絡みつかせる後者のやり方にトライしたところ、今まで見たことも触れたこともない新しい生地が誕生したのです。
watanomamaの繊維の束は、普通の糸よりも40%ほど太め。なぜなら、繊維の間にたっぷりと空気を含んでいるから。また、糸を紡ぐ工程を省くことで、近藤紡績所の通常の稼働時に比べ、約28%のCO2発生を抑えることができました。
環境に優しいことは、結果、人に優しい。そのふわふわな肌触りを、まずは一度試してみてください。